ニッシム ド カモンド
ニッシム ド カモンド
この名前を聞いて「あぁ、あれね?!」とおっしゃる方は、かなりパリ通。
しかし、これからパリに行く予定があり、「なにそれ?」とおっしゃる方には、あえて私はここにいらっしゃることをお勧めします。
これはパリ17区にあるこじんまりした美術館です。ルーブル、オルセー、オランジュリー・・・美術館の宝庫のようなパリですが、私も今回初めて足を運びました。私の母校、そしてたまたまとはいえ、現在 娘の留学している学校の目と鼻の先にあります。娘のレッスンの終わるのを待っている間、時間つぶしに入ったのですが、一生忘れられない思い出となりました。
フランス人で、ファーストネームとファミリーネームの間に「ド」が入っているのはその人が貴族であるという事。カモンド家は金融で財を成したユダヤ系トルコ人の銀行家。大ブルジョワです。
両親から受け継いだ大邸宅を、好みの18世紀風の風情のまま、メカニックは当時の最先端を施した、贅
を尽くした邸宅です。18世紀なのに、エレベーターはあるし、バスタオル乾燥機能付き!100年前です。
何より、つい先日まで一家が住んでいたかのように錯覚するほどすべての部屋を見る感覚は、すごいおうちに招かれて、ちょっとおトイレを借りたついでに2階の居室ものぞいちゃいましたぁ(そんなこと、私はいたしませんが笑)、みたいな・・・。お客様を待つ、テーブルセッティングにはなみなみと赤ワインが注がれています。たくさんの使用人が働く、50畳ほどの台所もまな板の上に今から料理される野菜たちが・・。使用人専用のダイニングだけでも、まるで星付きレストラン並みです。
小窓の奥が使用人専用ダイニング
こんな豊かな生活ができる人間がいたのか・・そう思いながら、解説のイヤホンに耳を傾けながら、部屋をめぐるうち、足取りはだんだん重くなります。すなわちこの一家の悲劇的な結末・・。銀行家として大成功をおさめ、可愛い男の子と女の子を授かったモイズでしたが、愛する長男を第一次世界大戦で失うのです。それ以来、仕事への情熱を失い、世間との交渉を避け、ひたすら美術の収集にだけ生きたモイズ、亡きあとは遺言により、その邸宅のすべては、その長男の名前を冠した美術館となったのです。残された女の子ベアトリスは馬術に長け、彼女の子供たちも母親譲りの馬術の才に恵まれた。映像が残っており、コーナーで見ることが出来ました。生き生きと馬を操るベアトリスとその可愛い子供たち・・・しかし一家の系譜は1943年にぷっつりと途切れます、アウシュビッツという名の冷たい場所で・・。
入り口に、この館の存続のために寄与した個人と企業名が・・・。我が日本の会社名が見えますね。