その後のパリ et ラヴェル
発表会までの最後のお休みの1週間、パリにおりました。金曜日に代官山教室のレッスンを済ませ、慌ただしくエアーフランス航空に乗り込んだ瞬間からモードが変わります。
シャルル・ド・ゴール空港はもちろん厳戒態勢。いつもより警官は多いと感じましたが、
彼らにしても、スーパーの入り口に銃を持って立っている兵士も、そこはラテン人、みな楽しそうにおしゃべり。「Je suis Charlie」(私はシャルリ)の張り紙もいっときより、少なくなったよ、と娘。
今回の休日,毎日 我が「のだめちゃん(娘です汗)」のお部屋のお掃除に明け暮れましたが、皆様には、今回足を運んだコンサートのお話しを・・・。
パリには素晴らしいコンサートホールがいくつかありますが、そのうちの1つ、サル・ガヴォーです。テアトル・シャンゼリゼほどには大きくないけれど、白亜の内装の美しい、私のお気に入りのホールです。ちなみにロン・ティボー国際コンクールはここで催されます。
この宵の出し物は、Ravel。「Les 100 du Torio de Ravel」すなわちラヴェルのピアノトリオが作曲され、ちょうど100年、ちょうど100年前にこのホールで初演されたことを記念して、のコンサートです。
実はラヴェルのみの演奏会はパリでもめったにないことだそうです、と申しますか、パリの人たちはベートーベン、ブラームス・・・が大好き。娘の家のお向かいのおじさんはお部屋にベートーベンの胸像を飾っています。「もっともすばらしい作曲家だ!」と。まぁ、音楽に国境はないということです。
100年前の建物など、ごく普通、200年前の物件のあるパリの街ですが、今宵100年まえ丁度ここでこの世に出されたのと同じ瞬間に立ち合うと思うと感慨もひとしおです。
私は弦楽四重奏曲が、ラヴェルの作品中 最もお気に入りですが、今回ピアノトリオがこんなに素敵な曲であることを改めて思いなおしたひと夜となりました。
舞台右手の女性はフランスの有名な女優さんで、この日はラヴェルの手紙の数々を曲の合間に朗読。
これ以外には フランソワ・デュモンのピアノソロ:高雅にして感傷的なるワルツ&クープランの墓
ミシェル・ベロフと・ジャン・フィリップ・コラールの2台ピアノ:ラ・ヴァルス
(往年のイケメンピアニストを拝顔するのを楽しみにしていましたが、この日JPコラールはドタキャンで、別の女性ピアニストが代役でした・・・なのでこのお二人の演奏は、この曲の醍醐味である,音の群れが織り成すうねりに身をゆだねる楽しみ・・・とまでは行きませんでした、残念!)
それにしてもこの日のピアノトリオのお3人は本当に素晴らしかった!心からブラヴォーを送りました。もちろん会場のあちこちから、ブラヴォーが飛んでいました。ピアノはパリ国立音楽院教授ドゥニ・パスカル・・日本では知名度が高くなくてもこのように本物のラヴェルの演奏ができる方がこの世にいて下さったことがどれだけ幸せであることか!今回の大きなお土産です。弦のお二人、ヴァイオリンのスヴェトリン・ルーセフ とチェロのオーレリアン・パスカル(たぶんピアニストの息子さん)
個々の演奏者からというよりは、ステージ全体にあふれた香りが立ちあがり、会場の隅々に行き尽くされた音の群れ・・・。溜息が出るほど素敵でした。まさにパーフェクトな演奏でした。 日本の演奏会では 演奏の出来がいかなるものであろうと、聴衆はしわぶきひとつない、マナーが良いのが通常ですが、今晩の聴衆のみなさん、冬だから?あちこちで演奏中もゴホゴホ、鼻をチーン・・・。しかしこのピアノトリオの時だけは、誰も咳をする人はいませんでした。会場中が、演奏のすごさに圧倒されていたのです。
この本物の芸術作品が生まれた日からちょうど100年経ったこの日もこの国民はこの作品を大切に、色褪せることなくあたためてきたということ、この人たちの財産なのだと、演奏のあまりの美しさにこの国へ軽い嫉妬さえ覚えながら、本物に触れた幸せ感を胸いっぱいに帰途につきました。